
ステータスシンボルであると同時に日常に取り入れられる実用性も備えたハイブランドスニーカー。かつてはブランドのロゴや、ブランドを象徴する意匠を前面に押し出し、身につける者の承認欲求を満たすための道具という側面が強かった。だが2025年の今、ハイブランドのスニーカーはより静かに、それでいて雄弁に持ち主の価値観や欲望を語る存在へと変わりつつある。
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自己演出?美意識?時代性?ハイブランドスニーカーを選ぶ理由を考える
ストリートブームの加熱が一巡したことにより、かつてはナイキとオフホワイトのコラボスニーカー「The Ten」やアディダスとカニエ・ウエストのコラボスニーカー「YEEZY BOOST」に代表されるレアスニーカーの争奪戦を繰り広げてきた層のうち決して少ない割合の人々が、今やヴィンテージジーンズやヴィンテージTシャツに興味の対象をシフトさせている。
そんな中で、スニーカー市場には新たな流れが生まれている。Onの「クラウドモンスター」や「クラウド6」が象徴する機能志向、アシックスの「GEL-Kayano 14」や「GEL-Lyte III」が物語るY2K回帰、サロモン「XT-6」やメレル「ジャングルモック」に代表されるアウトドアテイストへの再注目、そしてG.H.LENIENT、GUCCIやAldenのローファーに代表されるクラシックな革靴のリバイバル。
こうした多様な選択肢の中で、ハイブランドのスニーカーは「欲望の鏡」として機能する。かつての入手困難なレアスニーカーが大衆に向けたわかりやすい承認欲求の発露だったとすれば、今のハイブランドスニーカーはむしろ“理解する者だけに伝わる暗号”だ。プラダの未来派的ミニマリズム、ルイ・ヴィトンの歴史を背負った格式、マルジェラの匿名性と反逆精神──そのどれを選ぶかが、持ち主がどんな美意識に共感し、どんな価値観を拒絶しているかを赤裸々に映し出す。靴のシルエットや素材を超えて、「自分はどの文化に属したいか」 を宣言する一足。あなたはその問いに、どんな答えを用意しているだろうか。
デムナ時代を象徴するハイブランドスニーカー1. BALENCIAGA 3XL
バレンシアガが放った最新の衝撃が3XLだ。視線を奪う巨大なオーバーソール、履き込んだかのようなヴィンテージ加工、そして過剰ともいえるプロポーション。これこそがデムナ・ヴァザリアが体現してきた「ラグジュアリーの脱構築」を最も直接的に具現化した一足である。2017年発売のトリプルSが厚底スニーカーブームを牽引し、トラックがハイテクデザインを高感度層に浸透させた功績は大きい。しかし3XLは、その歴史の延長線上にありながら、さらに過激に、さらに挑発的に振り切った到達点だ。そして2025年、デムナの退任が決定したいま、3XLは単なる新作ではなく「デムナ時代を象徴する記念碑」となった。未来のバレンシアガがどんな方向へ進もうとも、このモデルが示した過剰美学は強烈に記憶され続けるだろう。
過剰の美学で時代を挑発するバレンシアガに続いて、プラダは都会的な機能美を武器に、異なるアプローチでラグジュアリーの現在地を描き出す。
機能美を纏うハイブランドスニーカー2. PRADA Prax 2.0 ファブリック スニーカー
プラダが送る最新モデル「Prax 2.0 ファブリック スニーカー」は、スポーティなシルエットとモダンなフォルムを融合した一足だ。アッパーに使われたファブリックに、プラダのブランドアイコンであるトライアングルロゴをあしらい、さりげなくも確かな存在感を演出している。丸みを帯びたソールはラバー製で履き心地が軽快でありつつ、厚さも程よく、カジュアルと上品さのバランスに優れている。プラダのスニーカーといえば、1990年代に登場し今なお復刻を重ねる「アメリカズカップ」が原点的存在だ。セーリング競技用シューズをルーツに持ちながら、洗練されたデザインでストリートからモードまで浸透した名作であり、プラダのスポーツとラグジュアリーを横断する姿勢を象徴している。その後、クラウドバストが未来的なシルエットで話題を集めたが、Prax 2.0はそれらの系譜を受け継ぎつつ、現代の都市生活に即した“都会的機能美”を体現しているのだ。
機能美を前面に押し出したプラダに続き、ロエベは軽やかさとクラフトの融合で時代の空気を刷新する。厚底全盛の潮流に対する薄底の選択は、転換点を象徴する挑戦だ。
新たな美学を提示するハイブランドスニーカー3. LOEWE Ballet Runner
ロエベのBallet Runnerは、その名の通りバレエシューズから着想を得たスニーカーだ。アッパーはナッパレザーやスエードを組み合わせ、つま先から甲にかけて流れるようなシルエットを描く。薄底のロープロファイル設計は、長らく続いた厚底スニーカートレンドに対する静かなアンチテーゼであり、ファッションの潮流を次の段階へと導く存在となった。スポーティな軽快さとクラフツマンシップの緻密さを両立させたこの一足は、2025年において「新たな美学」を象徴するハイブランドスニーカーといえる。
静かな美学を提示するロエベとは対照的に、ルイ・ヴィトンはストリートのエナジーを豪奢な文脈に翻訳することで、異なる角度から2020年代の価値観を示している。
ストリートとラグジュアリーを架け橋するハイブランドスニーカー4. Louis Vuitton LV Trainer
ルイ・ヴィトンのLV Trainerは、2019年にヴァージル・アブローが手がけたモデルとして登場し、瞬く間にブランドの新しい象徴へと成長した。バスケットボールシューズを思わせる厚みのあるソールと重厚なフォルムに、モノグラムや鮮やかなカラーを重ねることで、ストリートのエナジーをラグジュアリーの言語に翻訳した一足だ。以降シーズンごとに進化を続け、多様なカラーバリエーションや限定版がリリースされるたびに話題を呼んでいる。2025年の今もなお、ハイブランドスニーカーを語るうえで外せない基準点であり続けている。
ストリートの熱量を翻訳したLV Trainerに続いて、ランニングシューズ的なフォルムを洗練させ、未来的な美学へと昇華させた一足をディオールから紹介する。
未来的スポーティを纏うハイブランドスニーカー5. Dior B30
ディオールのB30は、2021年にキム・ジョーンズが発表したランニングシューズを思わせるデザインが特徴だ。流線型のシルエットに、メッシュと合成素材を組み合わせた軽快なアッパー。そして側面に大きく配された「CD」ロゴが、ハイブランドの存在感を主張する。ハイテクスニーカーの文脈を踏まえながらも、そこにディオールらしい洗練を加えることで、スポーティさとラグジュアリーの両立を実現した。B30は単なる流行の一足にとどまらず、ディオールの新しい顔として定着しつつある。
未来的なスポーティを体現したB30の次に取り上げたいのは、メゾン マルジェラが軍用トレーナーを再解釈したGerman Trainerだ。普遍的なミニマリズムの象徴として、ディオールとは対極のアプローチを示している。
ミニマリズムを極めたハイブランドスニーカー6. Maison Margiela German Trainer
マルジェラのGerman Trainerは、1970年代に西ドイツ軍が採用していたトレーニングシューズをベースにしたモデルだ。無駄を削ぎ落としたシンプルなフォルム、スエードとレザーの上品なコンビネーションは、ミニマルでありながら確かな存在感を放つ。もともとは実用的な軍用シューズであったものを、マルジェラが現代的に再解釈することでファッションアイテムとして昇華させた。ブランドを象徴する足袋スニーカーと並び、いまも定番として愛され続ける一足である。
次に紹介するのはエルメスのBouncing。マルジェラが匿名性と普遍性でラグジュアリーを問い直したのに対し、エルメスは上質素材と緻密な仕立てによって伝統的なクラフトの気品を体現する。
クラフツマンシップを宿すハイブランドスニーカー7. Hermès Bouncing
エルメスのBouncingは、ラグジュアリーメゾンならではの上質な素材使いと精緻な仕立てをベースにしながら、軽快でボリュームのあるフォルムを備えたスニーカーだ。アッパーには柔らかなカーフレザーやスエードを用い、ソールは現代的な厚みをもたせることで、クラシックとモダンを融合させている。バッグやレザーグッズで知られるエルメスが本気で作り込んだスニーカーとして、他ブランドにはない気品と完成度を誇る。控えめでありながら確かな存在感を放つこの一足は、エルメスの新しい定番となりつつある。
次に紹介するのはジルサンダーのMoon。エルメスがクラフトの精緻さで魅せたのに対し、こちらは装飾を削ぎ落とした彫刻的なミニマリズムが特徴だ。
彫刻的ミニマリズムを体現するハイブランドスニーカー8. Jil Sander Moon
ジルサンダーのMoonは、流線的で丸みを帯びたフォルムが特徴的なスニーカーだ。アッパーはシンプルに構築され、余計な装飾を排したデザインによって、まるでプロダクトデザインのような純度の高さを感じさせる。厚みのあるソールは未来的な印象を与えつつ、歩行に安定感をもたらす実用性も備える。ジルサンダーが得意とするミニマルな美学を忠実に反映しながら、現代のスニーカートレンドに応答するモデルとして注目を集めている。
ジルサンダーの静謐に対し、アレキサンダー・マックイーンはOversized Sneakerでボリュームの存在感を押し出す。
モードを日常に落とし込んだハイブランドスニーカー9. Alexander McQueen Oversized Sneaker
アレキサンダー・マックイーンのOversized Sneakerは、ボリュームのあるソールとクリーンなレザ―アッパーのコントラストで知られるアイコン的存在だ。シンプルなローカットの形をベースにしながら、ソールを誇張することで日常的に履けるモード感を創出した。2010年代半ばに登場して以降、ハイブランドスニーカーの「白スニーカー」ブームを牽引し、今もなお定番としてラインナップされ続けている。過剰さと普遍性を絶妙に両立させた一足であり、マックイーンの世界観をもっとも身近に感じられるモデルだ。
誇張されたボリュームの次は、サンローランのCourt Classic。余計な装飾を捨て、線と革質だけで“品”を語る。
ミニマリズムを体現するハイブランドスニーカー10. Saint Laurent Court Classic
Saint LaurentのCourt Classicは、その名の通りクラシックなローカットスニーカーをベースに、無駄を削ぎ落としたミニマルなデザインで再構築した一足だ。派手なロゴや装飾に頼らず、洗練されたラインと質の高いレザーのみで勝負するスタイルは、まさに大人の余裕を語るスニーカーである。スニーカーがファッションの主役となる時代にあっても、Court Classicは静かに、しかし確実に「品格」を演出する存在として支持され続けている。
サンローランの静かな品格から、振り幅を広げてAmiriのSkel Topへ。骨格モチーフの遊び心でストリートの血を通わせる。
ストリートのDNAを宿すハイブランドスニーカー11. Amiri Skel Top
AmiriのSkel Topは、スケートカルチャーやパンクの精神をラグジュアリーに昇華させた象徴的モデルだ。アッパーに配された骨格モチーフのレイヤーは、インパクトと遊び心を兼ね備え、他のブランドにはない唯一無二の存在感を放つ。ストリート直系の荒々しさを持ちながらも、上質な素材使いや精緻なディテールにより、ハイブランドとしての格をしっかりと纏う。Skel Topは、ラグジュアリーとストリートの境界線を軽々と飛び越える一足として、若い世代からも強烈な支持を集めている。
ストリートの躍動を纏うAmiriの後は、ボッテガ・ヴェネタのOrbit。イントレチャートの記憶を残しつつ、未来的なソールでクラフトとモダンを接続する。
クラフトと未来を繋ぐハイブランドスニーカー12. Bottega Veneta Orbit
Bottega VenetaのOrbitは、ブランドのアイコンであるイントレチャートをディテールに忍ばせつつ、未来的なソールデザインと流線的なシルエットで仕上げられたスニーカーだ。伝統的なクラフトマンシップと先鋭的なモダニティを両立させるアプローチは、ボッテガならではの強みといえる。単なるモードのトレンドを超えて、職人技と現代的な機能美を兼ね備えたOrbitは、ラグジュアリースニーカーの新しい在り方を提示するモデルとなっている。